弔問客の去った墓地は静かだ。俺は先祖代々の墓を眺める。線香の煙に包まれ、泰然自若と聳えていた。
 墓の前を蟻が列をなして歩いている。俺は墓に仲良く並んで納まっている母と妹、義母、父の骨について考えた。最後の邂逅の際に見た妹と看護師の類似性が頭にもたげてくる。しかし、妹の遺灰を確かめる気はなかった。
 俺は憶測を振り払い、墓石に手を合わせる。聖書の一節を唱えていた母の姿が眼裏に浮かんでいた。
	

[2014年8月10日] (c) 2014 ドーナツ